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藪の中--芥川龍之介
舞台は平安時代。藪の中で起こったある殺人事件の関係者が証言、告白するという構成になっている。
男の死体の第一発見者、「木樵(きこり)の証言」
死骸には胸に刺し傷はあったものの凶器は見当たらなかった。遺留品は縄と女物の櫛だけであった。 と。
その後、殺人が起こる前日に男と馬に乗った女に会った。「旅法師」、
男の衣服を着て太刀と弓矢を持ち馬に乗った盗人「多襄丸(たじょうまる)」を捕らえた「放免(ほうめん)」。
続いて、「被害者の妻の母親媼の証言」
死体の男の名は若狭国国府の侍で、金沢武弘(かなざわのたけひろ)。
女はその妻の真砂(まさご)で、自分の娘でもある。女は未だ行方知れずである。
などと、語った。
ここで、いよいよ当事者3人の証言となる。
「多襄丸の白状」
男を殺したのは私である。
自分は、昨日あの夫婦を見かけ、その女に惹かれ、男は殺しても、奪ってやろうと、決心した。
夫婦を山中へ連れ込み、油断した男を木に縛りつけ男目の前で女を犯した。
最初は男を殺すつもりはなかったが、女がすがりついてきて、2人の男に恥を見せるのは忍びない、
生き残った男の妻になりたいと言う。
男の縄を解いて、太刀で勝負する事にした。争った末、男を刺し殺した。
気がつくといつの間にか女の姿は消えていた。
「清水寺に来(きた)れる女の懺悔(ざんげ)」
わたしは手ごめにされた後、思わず夫の側へ、転(ころ)ぶように走り寄りました。
夫は、その刹那(せつな)の眼に、怒りでもなければ悲しみでもない、
ただわたしを蔑(さげす)みの底に、憎しみの色を見せているのです。
「あなた。もうこうなった上は、あなたと御一しょには居られません。わたしは一思いに死ぬ覚悟です。
しかし、――しかしあなたもお死になすって下さい。あなたはわたしの恥(はじ)を御覧になりました。
わたしはこのままあなた一人、お残し申す訳には参りません。」
「ではお命を頂かせて下さい。わたしもすぐにお供します。」
そして、夫の胸へ、ずぶりと小刀(さすが)を刺し通しました。
その後、私は、小刀(さすが)を喉(のど)に突き立てたり、山の裾の池へ身を投げたり、
いろいろな事もして見ましたが、死に切れずにこうしているのです。
「巫女(みこ)の口を借りたる死霊の物語」
盗人(ぬすびと)は妻を手ごめにすると、いろいろ妻を慰め出した。
妻はうっとりと顔を擡(もた)げた。おれはまだあの時ほど、美しい妻を見た事がない。
「あの人を殺して下さい。」妻はそう叫びながら、盗人の腕に縋(すが)っている。
盗人は静かに両腕を組むと、おれの姿へ眼をやった。
「あの女はどうするつもりだ? 殺すか、それとも助けてやるか?」おれはこの言葉だけでも、
盗人の罪は赦(ゆる)してやりたい。と思った。
妻はおれがためらう内に、何か一声(ひとこえ)叫ぶが早いか、たちまち藪の奥へ走り出した。
盗人も藪の外へ、姿を隠してしまった。
藪の中に一人残された私は世を儚んで、妻が落とした小刀を使い自刃した。
と・・・真相は、「藪の中」というわけだ。
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